理事長からの食品表示便り

-(続)分かりやすい表示を目指して-

理事長

猛暑の夏が過ぎ、秋の気配が感じられる候となりましたが、皆様如何お過ごしでしょうか。
8月30日に第45回消費者委員会食品表示部会が開催されました。

新メンバーとなって2回目の部会となりましたが、同部会において今後の食品表示の全体像に関する議題が取り上げられました。奇しくも前々回の同コーナーで解説した内容でしたので、今回は、その続編をお示ししたいと思います。

なお、その前に6月6日の第46回消費者委員会食品表示部会で諮られ審議された「無菌充填豆腐」「防かび剤(フルジオキソニル)」及び「ボロニアソーセージ」に関する食品表示基準が9月21日に内閣府令で告示され官報掲載されたことをご報告します。

1 消費者委員会食品表示部会における今後の課題の検討

同部会において、今後の食品表示の全体像の検討について、事務局から提案がありました。その背景としては、検討が始まった次期消費者基本計画において、食品表示に関してどのような方針を示すかということがあると思います。

現行基本計画では、インターネット販売の表示や加工食品の原料原産地表示など5テーマにつき、検討することが示され、現在までに食品添加物表示以外の4課題については検討を終え、食品基準やガイドライン等による具体的な対応が決められています。ただし、遺伝子組換え表示につきましては、今後消費者委員会へ諮問、同食品表示部会での審議、そしてそれを踏まえた消費者庁への答申、さらに答申に基づく食品表示基準の告示という手順が予定されています。なお、通常ですと、諮問内容に対するパブリックコメントの募集もされることから、仮に食品表示基準の告示がされるとしても来年に入ってからと思われます。

また、現行基本計画は平成32年3月末までのものですので、添加物についてもそれまでの間に何らかの検討がなされると思います。8月30日の事務局からの提案内容は以下の通りです。

  • 〇表示事項間の優先順位
  • 〇インターネットを活用した表示
  • 〇容器包装上の表示とWebによる情報提供の組み合わせ方
  • ●容器包装上の表示におけるデザイン、レイアウト上の工夫(文字サイズ、マークの活用など)
  • ●外国語表示への対応

このうち〇印はこれまでも消費者庁として要検討としてきた内容であり、●印は消費者委員会としての提案となっています。

2 食品表示一元化検討会等における検討経緯

上記課題は大変重要で、かつ主なものは従来食品表示一元化検討会等においても検討されてきた内容です。したがって、部会長からも、これまでの検討経緯を十分踏まえた審議が必要である旨の方針が示されました。

また、表示の見やすさ(見つけやすさ、視認性)、例えばレイアウト、文字の大きさ、コントラスト等や表示に代わるQRコード等の機能等に詳しい専門家を招いて、現状を聴取することになりました。そして、まずは次回10月10日の部会では、小生が当時座長を務めた食品表示一元化検討会(以下「検討会」)での検討経緯を説明することになっています。

この件につきましては、前々号で概要についてお示ししましたので、今回は補足的に説明を加えたいと思っています。

まず、検討会の趣旨ですが、「これまで、消費者庁においては、農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律、食品衛生法、健康増進法等の食品表示の関係法令の統一的な解釈・運用を行うとともに、現行制度の運用改善を行いつつ課題の把握等を行ってきたところである。今般、課題の把握等について一定の成果が得られたこと等から「食品表示一元化検討会」を開催し、消費者、事業者の御意見も伺いつつ、食品表示の一元化に向けた検討を開始する。」となっています。

そして具体的な検討項目 としては

  1. (1)食品表示の一元化に向けた法体系のあり方
  2. (2)消費者にとってわかりやすい表示方法のあり方
  3. (3)一元化された法体系下での表示事項のあり方

等となっており、(2)において明確に「わかりやすい表示」が取り上げられています。

なお、検討期間は、平成23年9月30日(第1回)〜平成24年8月3日(第12回)、検討時間は延べ34時間19分。この間、消費者に対する意向調査、中間論点に対するパブコメ・意見交換会等も実施しました。

一方、検討会では「見やすい食品表示の必要性」として、下記を挙げ検討しました。

  • ●新たな食品表示制度の検討に当たっては、その表示が見やすいものになっているか否かの視点をもって検討を行う必要がある。
  • ●表示の見やすさについて、
    1. ①食品表示をより分かりやすくする
    2. ②今後、高齢化が進展する中で、高齢者の方々が食品表示をきちんと読み取れるようにするためには、文字を大きくすることの必要性は高い

3 食品表示をわかりにくくしている要因

ところで、当時は一元化が図られる以前という状況でもあり、「分かりやすい表示」とは

  1. ①見やすさ(見つけやすさ、視認性)⇒ex.レイアウト、文字の大きさ、コントラスト等
  2. ②表示事項に関して目的、意味、ルール等の理解のしやすさ⇒ex. 「遺伝子組換え不分別」、「生鮮食品」と「加工食品」の区分、「安全性確保」と「選択機会の確保」の区分等

に区分されていましたが、②については食品表示法の制定に伴い、改善された点が多いことから、以下①に関する説明を主体に記すこととします。

なお、当然のことですが、「分かりやすい」表示となるためには、①及び②に加え、消費者自身が日常生活において利活用できる能力の具備にも依存します。

その上で、食品表示をわかりにくくしている要因として、過去の消費者意識調査等から以下が挙げられました。

  • ○情報が多すぎ、商品選択に必要な情報が見つけにくい
  • ○文字が小さい
  • ○消費者に馴染みのない中間食品や添加物が記載されており実際に役立つ情報になっていない(異性化液糖、たん白加水分解物、植物性たん白等)

逆に、表示をわかりやすくするためには、次のようなことが挙げられました。

  • ○表示事項の優先順位に差をつけることにより、容器包装に表示する文字数を調整する
  • ○表示に用いる文字のサイズを拡大する
  • ○容器包装以外への表示により情報を提供する(WEB、POP等の活用、説明書の同封等)
  • ○視覚的要素を活用する(表、マーク等の活用、配色の工夫等)

一方、当時は過去の消費者意識調査に見る「消費者が重視する表示項目」については図1のとおりとなっていました。これによると、平成14年と平成20年を比較した場合、上位から「日付(期限)」「原産地」「添加物」「原材料名」の順になっている点は変わりませんが、次に来るのは平成14年度が「遺伝子組換え」「農薬・抗生物質」「国産品の原産地」の順に対し、平成20年度は「農薬・抗生物質」「保存方法」「国産品の原料原産地」の順になっています。

図1 表示事項の優先度について

また、平成23年度の調査結果が図2ですが、この時は前記の2つ年度には入れていなかった「価格」は別として、上位から「期限表示」「原材料名」「内容量」の順となっております。

このように消費者の関心のある表示事項は、その時々により異なるとともに、個々人によって違っていると言えます。

図2 購入の際に参考にする項目(一つを選択)

4 表示すべき事項の考え方

こうした状況も踏まえ、検討会では表示すべき事項の考え方として、

  • ○消費者に関心のある事項を幅広く記載するべきか。あるいは、消費者が見てわかりやすくするという観点から、情報量をある程度調整するべきか。
  • ○仮に情報量を調整するべきと考えた場合、その優先順位はどうするのか。

という観点で検討することになりました。

また、その場合の前提として、表示事項を以下のように分類しました。

  • ○消費者が安全に関わるリスクを合理的に判断するために必要な事項
  • ○消費者の適切な栄養摂取を促すために必要な事項
  • ○商品の品質等を合理的に判断するために必要な事項
  • ○その他の事項

5 表示以外の情報伝達媒体の活用について

前記の前提に基づく検討内容として、まず文字を大きくすることについては既号にて説明しましたので省略しますが、表示以外の情報伝達媒体の活用については図3および図4の通り、各々一長一短があることも示されました。

図3 容器包装以外の表示媒体の活用①
図4 容器包装以外の表示媒体の活用②

そして次の2案を、仮の想定件として設定し、実際の表示をその条件に当てはめてみた場合、どのようになるかを即席カップめんを例として示したのが図5です。

図5 表示のイメージ(案)①即席カップめん

(案1)

  • ○原材料の上位2品目について、原料の原産地を表示
  • ○添加物は全て、物質名に用途名用途名または一括名を併記
  • 〇製造者の名称および所在地を表示し、製造所固有記号は使用しない
  • 〇栄養成分名およびその含有量を表示(一般表示事項およびトランス脂肪酸等を表示)

(案2)

  • ○アレルギーは原材料に付記することをやめ、一括で表示する
  • ○原材料、添加物は上位8品目を表示
  • ○容器包装には原材料名とは別に添加物名を項目として追加し、用途名または一括名を記載
  • ○商品に責任を持つ者(併せてその電話番号または住所)を表示
  • ○製造者の名称及び所在地を表示し、製造所固有記号は使用しない
  • ○栄養成分名およびその含有量を表示(一般表示事項)
  • ○一括表示欄に表示されない残りの情報はWEBサイトやPOP等で表示可。

前々号で示した検討会の報告書における「情報の重要性の整序」は、以上のような検討を踏まえた結果です。

6 消費者委員会食品表示部会における「分かりやすい表示」に関する今後の検討スケジュール

いずれにしても、文字の大きさやWEB等表示に代替する情報提供については重要な課題です。一方、遺伝子組換え表示に関して、食品表示基準の改正についての審議もなされることになっています。

このように、遺伝子組換え表示の審議と並行して「分かりやすい表示」の審議もなされることになり、10月10日の表示部会では「分かりやすい表示」に関する検討とともに遺伝子組換え表示についても、諮問内容および検討経緯の説明がなされることになっています。その検討状況についても次号で解説させていただくことにします。

(平成30年9月30日現在)

-栄養成分表示について-(平成30年7月31日)
-分かりやすい表示を目指して-(平成30年6月30日)
-新たな食品表示基準の動向について-(平成30年5月31日)
-遺伝子組換え食品の表示制度の動向について ―その2 検討結果と今後のスケジュール― (平成30年3月31日)
-遺伝子組換え食品の表示制度の動向について ―その1 消費者の表示に対する意識― (平成30年2月28日)
-食品表示はどのように変わっていくのか?(その2)- (平成29年12月28日)
-食品表示はどのように変わっていくのか?(その1)- (平成29年11月27日)
-加工食品の原料原産地表示基準の答申及び施行に関しての留意点- (平成29年8月25日)
-加工食品の原料原産地表示基準に関する諮問に対する答申書案の審議動向- (平成29年8月1日)
-加工食品の原料原産地表示基準の審議動向- (平成29年7月3日)
-分かりやすい表示と情報の重要性の整序- (平成29年4月30日)
-加工食品の原料原産地表示に関する食品表示基準改正のポイント- (平成29年3月30日)
-若年層における食品表示教育の現状- (平成29年3月1日)
-食品表示制度と食育政策- (平成29年2月1日)
-新年のご挨拶 新たな食品表示基準等への対応の年に- (平成29年1月1日)
-加工食品の原料原産地表示制度に関する検討状況(中間取りまとめ)- (平成28年11月30日)
-加工食品の原料原産地表示制度に関する検討状況(2)- (平成28年10月31日)
-加工食品の原料原産地表示制度に関する検討状況(1)- (平成28年9月29日)
-「理事長からの食品表示便り」コーナーの創設に当たって- (平成28年9月1日)


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