理事長からの食品表示便り

-栄養成分表示について-
名刺記載例

連日異常な猛暑が続いていますが、皆様お元気でお過ごしでしょうか?

新たな食品表示制度も、加工食品の食品表示基準適用に関しては、原料原産地表示を除き経過措置期間があと1年半となりました。

すでに、新基準に切り替えられた事業者も多いかと思いますが、これから…というところは準備が気になっておられることと思われます。

本号では、新基準の中でも新たな制度として注目されている栄養成分表示について触れたいと思います。

1 健康・栄養政策の一環としての栄養成分表示制度

1) 栄養成分表示制度の沿革

これまでの栄養成分表示制度は、昭和27年に当時の栄養改善法の制定により、特殊栄養食品制度として、「栄養成分を補給できる旨の表示」をする場合に厚生大臣(当時)の許可を要することとされたことに始まります。特殊栄養食品制度とは、大臣許可を要する「栄養成分を補給できる旨の表示」と「乳児用、幼児用等特別の用途に適する旨の表示」の2つからなり、平成3年の見直しにより、特殊栄養食品制度のうち「栄養成分を補給できる旨の表示」に係る部分は、「栄養強化食品」制度に移行しました。戦後復興期である当時は、栄養に関する国民の知識も乏しく、かつ、厳しい食料事情による栄養不足や貧血が大きな課題であったことから、国民の栄養摂取状況を改善するため、食品にビタミンやミネラルを強化する必要がありました。その後、肥満や生活習慣病の増加等を背景に、国民の健康志向が高まるとともに、栄養成分の補給を訴求する表示よりも、むしろ逆に「低糖」や「低カロリー」を訴求する表示が行われるようになりました。

このような状況も踏まえ、平成7年に栄養改善法が一部改正され、それまでの特殊栄養食品制度が廃止され、現行の「栄養表示基準」が導入されました。

その後、急速な高齢化の進展や、国民の死亡原因に占める生活習慣病の割合の増加等に伴い、国民の健康の増進の重要性が高まったことを受け、平成14年に、国民の健康の増進を目的として、健康増進法が新たに制定され、同法の中で従前の栄養改善法に基づく栄養成分表示制度が引き継がれることとなりました。

2) 健康・栄養政策における課題

健康・栄養政策に関しては、平成12年に、健康寿命の延伸、生活の質の向上等の実現を目的として、国民健康づくり運動の方針「健康日本21」が策定されました。「健康日本21」は、患者数や死亡者数が年々増加する生活習慣病の予防への対応を特に重視し、国民一人一人が食生活や身体活動等の生活習慣の改善等に取り組むことを主眼としています。特に、食生活は、多くの生活習慣病との関連が深く、さらに「健康日本21」の次期方針として平成24年7月に策定された「健康日本21(第2次)」においては、非感染性疾患の予防の観点から、次のような具体的目標を掲げています。

  • ・ 栄養・食生活における生活習慣の改善のため適正体重を維持している者の増加や食塩摂取量の減少
  • ・ 新たに社会環境の改善に取り組むことが基本的な方向の一つとして示される中、その取組を促すため食品中の食塩や脂肪の低減に取り組む食品企業数等の増加

このように、栄養成分表示は、健全な食生活の実現に向けて、個人の行動に変化を促すための環境作りの一環として、重要な役割を果たすことが期待されているわけです。

ちなみに「健康日本21(第2次)」における栄養・食生活に関する目標の一部は表のとおりです。

3) 国際的な栄養成分表示制度の動向

国際的には、平成16年に世界保健機構(WHO)において、「食事、運動と健康に関する世界戦略(WHO世界戦略)」が採択され、その中で、摂取エネルギーバランスと適正体重の達成、脂質からのエネルギー摂取の制限など食事に関する推奨事項が示されました。これを受け、コーデックス委員会は、平成20年の第31回総会において、「WHO世界戦略」の実行に当たり、栄養表示ガイドライン(CAC/GL2-1985)に関し、栄養成分表示の義務化などについて新規で検討を行うことを決定しました。栄養成分表示の義務化については、同委員会の食品表示部会において検討が行われ、平成24年5月に行われた第40回食品表示部会では、

  • ・ 国内事情が栄養成分表示を支持しない場合を除き、予め包装された食品の栄養成分表示を義務とすべき
  • ・ ただし、栄養あるいは食事上重要ではない食品、または小包装の食品等の食品は表示義務の対象外としてもよい
との見直し案が合意され、同年7月の第35回コーデックス委員会総会において同見直し案が採択されました。

また、すでに栄養成分表示の義務化が導入されていた米国に続き、このような動きに歩調を合わせる形で、南米諸国や中国、インド、韓国、オーストラリアやニュージーランドなどの各国で栄養成分表示の義務化が進められてきました。EUにおいても、平成23年11月に、食品表示に関する新規則「消費者に対する食品情報の提供に関する規則(EU)No1169/2011」が公示され、同年12月13日に発効しました。

4) 食品表示一元化検討会における基本的考え方

上記の状況を踏まえ、平成23年〜24年に開催された消費者庁の「食品表示一元化検討会」では、栄養成分表示に関して以下のような基本的な考え方が示されました。

「健康をライフサイクル全体という長い時間軸の中で身体・生命を維持増進することと捉えれば、栄養表示は、生活習慣病の増加や食生活の多様化が進む中、健康的な食生活を営むための基礎として、言い換えれば、中長期的な期間で栄養を管理するための目安と捉えることができる。栄養表示を義務化すれば、栄養成分に関する情報が確実に提供されるようになり、より多くの消費者がその情報を基に日々の栄養・食生活の管理に活用しうる環境が整うことになると考えられる。このように食品の栄養情報を充実させるとともに、それを実際の消費行動に変化を促し、栄養情報を考慮した消費行動に結びつけていくためには、栄養表示に関する消費者への普及啓発が重要となってくる。そのためには、栄養表示の読み方や1日当たりの摂取目安量などはもちろんのこと、加えて、消費者を含めた関係者の中で、栄養表示には、表示値と実際の含有量との間にある程度の差が生じ得るのは当然であるとの共通の認識を醸成する環境を作っていくことが重要である。これは、栄養表示をライフサイクル全体の中で活用していくという視点で考えれば、仮に、個々の食品ごとにみれば栄養表示値と実際の含有量との間に差があったとしても、日々の栄養・食生活を管理していれば、中長期的な食生活全体の中では、摂取する栄養成分の量が平均化されていくことになると考えられるためである。さらに、栄養表示については、数値で示す必要があり、かつ、食品を供給する事業者自身もその数値を当然に知り得るものではないといった特殊性があり、事業者が義務化に対応するためには、包材の切替えに加え、栄養成分の分析や計算など様々な準備がいることに配慮する必要がある。以上のことを踏まえれば、栄養表示の義務化は、消費者側・事業者側双方の環境整備と表裏一体のものとして論ずべきものである。」

5) 栄養成分表示の義務化に向けての環境整備

また、食品表示一元化検討会の報告書では、一定程度の猶予期間を設けた上で義務化を図ることとするが、それまでの間は、栄養成分表示の義務化を円滑に進めるために必要な環境整備として、従来の制度において、まずは、次のア及びイに関する表示基準の改正等を行い、栄養成分表示の拡大充実を図っていくことが適当であるとしています。

ア 現行制度の下での栄養成分表示の拡大

@ 新たな表示方法の導入と事業者への働きかけ

消費者庁は、幅広い食品に栄養成分表示を付することができるようにするため、従来の誤差の許容範囲に縛られない計算値方式等を導入することも可能とすることとし、そのための表示基準の改正を速やかに行うべきである。

その上で、消費者庁は、事業者に対しては計算値による方法も活用することにより栄養成分表示する食品を拡大するよう協力を求めるとともに、消費者がよりきめ細かい健康管理を行うことができるよう、表示する栄養成分の拡大を推奨するなどの取組を進めるべきである。

A 消費者等への普及啓発の推進と認識醸成の環境作り

より多くの消費者が栄養成分表示を活用し、栄養バランスのとれた食生活を送れるようにするためには、個々の消費者の栄養に関する知識や理解を高めるとともに、栄養成分表示を中長期的な食生活全体の中で捉えるとの認識が広まることが重要である。このため、消費者庁は、内閣府、厚生労働省その他の関係省庁と連携しつつ、消費者等への栄養に関する情報についてさらなる普及啓発や認識醸成のための環境作りを進めるべきである。

イ 円滑に栄養成分表示が行えるようにするための支援

文部科学省科学技術・学術審議会資源調査分科会が調査・公表している「日本食品標準成分表」は、昭和25年の公表以降、食品の栄養成分の標準的な含有量に関する公的な基礎データとして広く利用されている。また、民間においても、栄養成分の含有量に関する各種データベースや計算ソフトなど現在でも支援ツールが存在する。 アの取組と併せ、栄養成分表示に関する自主的な取組が円滑に進むよう公的なデータベースの整備を図るとともに、上記の支援ツールと適切な表示のための支援体制を充実させることを通じて、必要な環境整備を行うべきである。

2 栄養成分表示をするには(基準と適用法)

1) 義務表示内容

平成27年4月1日に食品表示法が施行され、一般用加工食品に栄養成分表示が義務付けられました。ただし、2020年3月31日までに製造(または加工・輸入)されるものについては、食品表示法施行前の旧基準による表示が認められます。

具体的には、必ず、熱量、たんぱく質、脂質、炭水化物、ナトリウム(食塩相当量に換算したもの)の5つを表示しなければなりません。

表示方法には、決まりがあり、表示する場合には、

  1. @ 必ず「栄養成分表示」との表示が必要です。
  2. A 熱量および栄養成分の表示の順番は決まっています。
  3. B 食品単位は、100g、100ml、1食分、1包装、その他の1単位のいずれかを表示します。
  4. C 表示される値は分析の他、計算等によって求めた値を表示することが可能です。

 @ 分析により値を得る場合

値の設定に用いる分析方法は、食品表示基準に規定される場合※1を除き、特段の定めはありません。

※1 たとえば、栄養強調表示(低カロリー、減塩等の表示)をする場合、強調された栄養成分等の値は食品表示基準別表第9第3欄に掲げる方法によって得ることとしています。

 A 計算等により値を得る場合

データベース等の値を用いること、またはデータベース等から得られた個々の原材料の値を計算して表示値を求めることも可能です。

なお、表示する値は「一定の値」または「下限値および上限値」で表示します。

この場合、「一定の値」は食品表示基準で定められた方法※2で得られた値が、表示された値を基準として許容差の範囲内※3である必要があります。

たとえば、熱量の許容差の範囲は±20%なので、この例の場合、食品表示基準で定められた方法※2で得られたが、80〜120kcalの範囲内にある必要があります。

一方、「下限値および上限値」については、

  • ・ 食品表示基準で定められた方法※2で得られた値が、表示された下限値および上限値の範囲内にある必要があります。
  • ・ 値の幅については、根拠に基づき適切に設定します。

たとえば、「炭水化物 20〜25g」という表示の例の場合には、食品表示基準で定められた方法※2で得られた値が、20〜25gの範囲内にある必要があります。

  • ※2 食品表示基準別表第9第3欄に掲げられた方法
  • ※3 食品表示基準別表第9第4欄に掲げられた許容差の範囲

なお、表示された一定の値が許容差の範囲を超える可能性がある場合、合理的な推定により得られた値として表示することも可能※4です。

※4 栄養強調表示(低カロリー、減塩等の表示)をする場合、強調する熱量及び栄養成分も含めて全ての成分について、合理的な推定により得られた値による表示はできません。

ただし、合理的な推定により得られた値を表示する場合、下記@Aが必要となります。

  • @ 合理的な推定により得られた値である表示
  • ・ 表示された値が食品表示基準で定められた方法によって得られた値とは一致しない可能性があることを示す表示が必要となります。
  • ・ 次のいずれかの文言を含む表示を、栄養成分表示に近接した場所に表示します。
  • ア「推定値」

    イ「この表示値は、目安です。」

  • A 根拠資料の保管
  •   表示された値の設定の根拠資料を保管しなければなりません。

2) 栄養成分表示が省略可能な条件

以下のいずれかに該当する場合には栄養成分表示の省略が可能です。

@ 表示可能面積がおおむね30cm2以下

A 酒類

B 栄養の供給源の寄与の程度が小さいもの

C 極めて短い期間で原材料(その配合割合も含む)が変更されるもの

D 消費税を納める義務が免除されている事業者または、中小企業基本法に規定する小規模事業者が販売する場合

E 食品を製造し、または加工した場所での販売

F 不特定または多数の者に対しての譲渡(販売を除く)

ただし、Dで示す小規模の事業者をより具体的に示すと、下記のいずれかに該当するものとなっています。

  • ・ 消費税法において消費税を納める義務が免除される事業者
  • ・ 中小企業基本法に規定する小規模企業者※5

※5 おおむね常時使用する従業員の数が20人(商業またはサービス業に属する事業を主たる事業として営む者については5人)以下の事業者

ここで、注意しなければならないのは、小規模の事業者が製造する食品であっても小規模ではない事業者が販売するものは栄養成分表示が省略できないことです。

例えば、小規模の事業者が製造した食品でも、その食品を販売する事業者が大手のスーパー等のように小規模の事業者でない場合は、栄養成分表示を省略できません。

これは、栄養成分が製造時点から販売に至るまでに変化したり、販売時点で複数の食品を合わせて一つの製品として販売する場合など、あくまでも消費者の手に渡る一番近い段階での栄養成分の値を重視しているためです。

いずれにしましても、このように事業者が努力して表示した栄養成分情報が、消費段階で十分活用されてはじめて、この制度が実効あるものとなり、そうなることを期待しています。

(平成30年7月31日現在)

-分かりやすい表示を目指して-(平成30年6月30日)
-新たな食品表示基準の動向について-(平成30年5月31日)
-遺伝子組換え食品の表示制度の動向について ―その2 検討結果と今後のスケジュール― (平成30年3月31日)
-遺伝子組換え食品の表示制度の動向について ―その1 消費者の表示に対する意識― (平成30年2月28日)
-食品表示はどのように変わっていくのか?(その2)- (平成29年12月28日)
-食品表示はどのように変わっていくのか?(その1)- (平成29年11月27日)
-加工食品の原料原産地表示基準の答申及び施行に関しての留意点- (平成29年8月25日)
-加工食品の原料原産地表示基準に関する諮問に対する答申書案の審議動向- (平成29年8月1日)
-加工食品の原料原産地表示基準の審議動向- (平成29年7月3日)
-分かりやすい表示と情報の重要性の整序- (平成29年4月30日)
-加工食品の原料原産地表示に関する食品表示基準改正のポイント- (平成29年3月30日)
-若年層における食品表示教育の現状- (平成29年3月1日)
-食品表示制度と食育政策- (平成29年2月1日)
-新年のご挨拶 新たな食品表示基準等への対応の年に- (平成29年1月1日)
-加工食品の原料原産地表示制度に関する検討状況(中間取りまとめ)- (平成28年11月30日)
-加工食品の原料原産地表示制度に関する検討状況(2)- (平成28年10月31日)
-加工食品の原料原産地表示制度に関する検討状況(1)- (平成28年9月29日)
-「理事長からの食品表示便り」コーナーの創設に当たって- (平成28年9月1日)


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