理事長からの食品表示便り

分かりやすい表示を目指して
名刺記載例

梅雨時の鬱陶しい日々が続いていますが、皆さまお元気でお過ごしでしょうか?

食品表示に関しては、前号で6月上旬に開催された消費者委員会食品表示部会の案件(3基準案)についてご紹介させていただいたところですが、次回以降今夏〜秋には、同委員会に遺伝子組換え表示に関する食品表示基準案が諮問される予定です。過去の例によれば、同委員会の食品表示部会において数回の審議がなされ、答申されることになると思われます。

その状況については、別途ご報告させていただくことにしますが、今回は一般社団法人ユニバーサル・コミュニケーション・デザイン協会(UCDA)が主催したセミナーで「分かりやすい表示を目指して」というテーマで講演する機会を得ましたので、その説明概要をお伝えします。

1. 分かりやすい表示とは?

まず、どうすれば「分かりやすい表示」となるかということですが、その条件として、

  1. 1) 見やすさ(見つけやすさ、視認性)、例えばレイアウト、文字の大きさ、コントラスト等
  2. 2) 表示事項に関して目的、意味、ルール等の理解のしやすさ、例えば「遺伝子組換え不分別」、「生鮮食品」と「加工食品」の区分、「安全性確保」と「選択機会の確保」の区分等に加え、日常生活において利活用できる能力の具備にも依存するかと思われます。

このうち、見やすさに関しては、食品表示一元化検討会(平成23〜24年)において「表示の見やすさ」について検討する際の考え方が次のように示されています。

  1. ● 新たな食品表示制度の検討に当たっては、その表示が見やすいものになっているか否かの視点をもって検討を行う必要がある。
  2. ● 表示の見やすさについて、
    1. ① 食品表示をより分かりやすくする
    2. ② 今後、高齢化が進展する中で、高齢者の方々が食品表示をきちんと読み取れるようにする

このためには、文字を大きくすることの必要性は高いとしています。

しかし、文字を大きくした場合、必要となる面積も拡大するため、限られた面積の中に表示を行うことが不可能となることも想定されるので、現行の一括表示による記載方法等を一定のルールの下に緩和することを検討する必要があると指摘しています。

因みに食品表示一元化検討会用に調査した消費者対象のアンケート結果によれば、消費者にとって「分かりにくい」表示の理由の第1位は、ほとんどの表示事項について「文字が小さいため」でした(図表1)。

2. 文字の大きさが小さい理由

文字を小さくせざるを得なくなった理由は、各々の時代背景に基づく消費者ニーズの高まりや不正表示事件の発生などにより、図表2に示すように年々義務表示事項が追加されてきたためですが、一方では図表3のように時代と共に少人数世帯(特に1〜2人世帯)が増加し、流通する食品も少量・小体積化傾向が増加してきたため、必然的に表示可能面積が小さくなってきたことも影響しています。

このように、表示可能面積と義務表示事項数は、反比例の関係のもとに推移してきました。

図表4は、仙台の醤油会社の製品ラベルに表示されている内容の時代変遷を示したもので、数十年の間に表示事項が増えてきたため、当初2個の荷印が1個にせざるを得なくなってしまいました。

3. 文字の大きさと情報量に対するニーズ

この問題を解決するには、表示事項を減らして文字の大きさを大きくすることが考えられます。このことをアンケート調査したところ、約73%の消費者が「表示項目を減らし、文字を大きくする」という意向でしたが、約27%の人からは「小さい文字でも多くの情報を載せる」という意向が示されました(図表5)。この両者の意向を満足させるためには、表示以外の媒体、たとえばQRコードや問合せ電話番号の記載などが考えられますが、その点についての調査結果は、「できるだけ多くの情報を容器包装に表示する」と「容器包装に載せる情報は重要なものに限り、それ以外は容器包装以外の表示媒体(ウェブやPOP表示等)を活用して任意に表示する」との回答が丁度半々となりました(図表6)。

一方、加工食品の原料原産地表示の検討に際して、同表示をあくまでも表示を介して確認する人が約93%を占めたのに対し、ホームベージを見ると答えた人は18%程度でした(図表7)。

ただし、ホームページ活用者は、今後世代の交代とともに増加すると考えられ、いずれその活用について検討する時期が来ると思われます。

4. 消費者委員会食品表示部会における議論

この課題については、食品表示基準の審議が行われた平成25〜26年の消費者委員会食品表示部会でも検討されました。同部会では「生鮮食品、加工食品及び栄養表示の3つの調査会」を設置して食品表示基準に関する検討が行われましたが、そのうち第4回「加工食品の表示に関する調査会(平成26.3.20)」において当課題が議論されました。

具体的には、見やすい食品表示の考え方(文字の大きさについて)として、

  1. 1) 基本的に文字を大きくすると表示は見やすくなるが、表示可能面積には限りがあるため、実行可能性を考慮し、文字の大きさを定める。
  2. 2) 具体的には、現在、文字の大きさは5.5ポイント以上と8ポイント以上で規定されているが、特に見にくいと考えられる5.5ポイント以上の文字の大きさの拡大を検討する。
  3. 3) また、文字の大きさの拡大に加え、栄養成分表示の義務化に伴う表示面積の拡大も踏まえ、省略規定が適用される面積の拡大を検討する。

そして、新たな基準案として、容器包装の面積が30cm2以下の場合は、従来通り文字の大きさを5.5ポイント以上とするが、容器包装の面積が30cm2より大きくかつ表示可能面積が150cm2以下の場合に、文字の大きさを6.5ポイント以上ということが提示されました。

この場合、当然のことですが、文字の大きさを5.5ポイントから6.5ポイントに拡大すると表示に必要となる面積が拡大します(図表8)。

一方、同時に省略規定を可能とする面積を30cm2以下から、50cm2以下に変更するという新基準案が示されました(図表9)。

しかし、この課題はきわめて重要であり、8ポイント以上という一般的基準も含め抜本的な検討が必要との結論となり、今日まで「宿題」のままとなっています。

5. 食品表示基準への反映

しかし、食品表示法に基づく新たな食品表示基準においては、小包装の食品における省略可能な表示事項(第3条第3項関係)として、表示可能面積が30cm2以下の場合は、安全性に関する表示事項(「名称」、「保存方法」、「消費期限又は賞味期限」、「表示責任者」及び「アレルゲン」)については、省略不可とされました。更に、パブリックコメントの結果を踏まえ、「L-フェニルアラニン化合物を含む」旨の表示も省略不可として追加されました。これは、同表示が食品衛生法第19条第1項に基づく表示の基準に関する内閣府令で義務付けられたものであり、フェニルケトン尿症患者の安全性の確保のために重要な表示だからです。すなわち、表示がされていない食品を、L-フェニルアラニン化合物が含まれていないものと誤認して摂取した場合、神経障害や脳障害など重大な健康危害が発生するおそれがあるためです。

加えて、表示責任者を表示しなくてもよい場合(食品を製造し、若しくは加工した場所で販売する場合、不特定若しくは多数の者に対して譲渡(販売を除く)する場合又は食品関連事業者以外の販売者が容器包装入りの加工食品を販売する場合)には、製造所又は加工所の所在地(輸入品にあっては、輸入業者の営業所所在地)及び製造者又は加工者の氏名又は名称(輸入者にあっては、輸入業者の氏名又は名称)も省略不可とされました。

その理由として、インストア加工された容器包装入りの食品やサンプルとして配布される食品を販売する場合又は食品関連事業者以外の販売者が容器包装入りの加工食品を販売する場合(例えば、小学校のバザーで保護者が袋詰めのクッキーを販売する場合や町内会の祭りで町内会の役員が瓶詰めの手作りジャムを販売する場合)は、表示責任者の表示が義務付けられておらず、当該食品については、表示責任者を通じて最終の衛生管理がなされた場所の情報を消費者が知ることができないため、その情報自体を表示する必要があります。

6. 表示事項に関して目的、意味、ルール等の理解のしやすさについて

一方、「見やすさ」とは別に、表示事項に関して目的、意味、ルール等の理解のしやすさも重要な課題です。例えば、「生鮮食品」と「加工食品」の区分が該当するのではないでしょうか。現行では、マグロ単品の刺身、マグロのキハダとメバチを盛り合わせたもの、マグロの赤身とトロを盛り合せたものが「生鮮食品」に対して、マグロと赤貝の刺身の盛り合せたものが「加工食品」ということになっていますが、消費者の意識としては理解しにくいと思われます。その他、加工食品の原料原産地表示における「大括り表示+又は表示」に該当する「輸入又は国産」の表示も、そのルールを理解していないと分かりづらいかと思います(図表10)。また、「遺伝子組換え不分別」の表示方法についても、消費者庁の検討会において表示の意味が分かりにくい…とされ、これに代わる実態を反映した分かりやすく誤解を招かないような表示を検討し、Q&A等に示すよう取り組むことが適当とされたところです。

以前、期限表示に関して食品衛生法では「品質保持期限」、JAS法では「賞味期限」との表現法が規定されていましたが、「賞味期限」に統一されました。しかし「賞味期限」と「消費期限」が音(オン)では1音違いなので、未だに区別しにくいと言われています。

こうした課題は個別に検討する一方で、ルール化に際してどうしても制約条件がある等のため他の表現が難しい場合もあることから、並行して消費者への正しい理解に向けた的確な普及・啓発を図ることも重要と思われます。

一方、基本的でかつ重要な課題として、現行の食品表示法に基づく各種表示事項の「目的」に関する理解度が挙げられます。

すなわち、食品表示法第1条において、食品表示の役割として、

  1. ① 食品を摂取する際の安全性の確保
  2. ② 自主的かつ合理的な食品の選択の機会の確保

が規定されており、各表示事項もどちらかの目的に該当しています。

例えば、「アレルゲン」、「保存の方法」、「消費期限」等は①の安全性に関する事項に該当します。他方「原産地」や「遺伝子組換え」の表示は②に該当する事項ですが、図表11にように、アンケート調査では過半数の消費者は①の安全性確認として活用しています。こうした現象は消費者の率直な実態として捉え、対応していくことが必要です。

7. 食品表示を利活用できる能力の具備

最後に、こうした表示の分かりにくさに対する対策の重要な要素として、消費者の食品表示を利活用できる能力の具備が挙げられます。

例えば、平成32年4月から義務化が適用される栄養成分表示は、消費段階で利活用されてはじめて制度が活きたものとなります。購入する加工食品の栄養表示を利活用するためには、

  1. 1) 自分自身の適正摂取栄養素等の量を理解しておくことが必要
  2. 2) 購入加工食品以外に、自分で作る料理等の栄養成分量も把握できることが必要

となります。

また、前記のように安全性確保に関する表示事項が機能するためには、消費段階でのリスク、特に開封後の微生物汚染等の対策に対する知識と理解を深めることが大切です。更に「遺伝子組換え」や「添加物」に関する正しい知識を有することも必要です。

こうした対策は「食育」の分野になるのかもしれませんが、食育基本法の基本理念に基づき、産学官の連携の下、あらゆる場所あらゆる機会を通じて知識と理解を深める対策が求められます。

8. 情報の重要性の整序

以上、食品表示をより分かりやすいものとするための課題を整理してみました。食品表示一元化検討会においては、「情報の重要性は消費者や食品によって異なり、表示されている事項の全てを見ている消費者は必ずしも多くはない」としており、それを前提とした場合、「できる限り多くの情報を表示させることを基本に検討を行うことよりも、より重要な情報がより確実に消費者に伝わるようにすることを基本に検討を行うことが適切」とし、「表示義務として行政が積極的に介入すべきは、特に安全性確保に関する情報」とも明記しています。

その結果、情報の重要性に違いがあることを前提とした制度設計の基本的考え方として、

  1. ◎ 安全性確保を優先し、消費者にとって真に必要な情報を検証
  2. ◎ 商品の容器包装への表示が良いのか、むしろ、代替的な手段によって商品に関する情報提供を充実させた方が良いのか、実行可能性と供給コスト等消費者のメリット・デメリットのバランスを検討
  3. ◎ 安全性確保関係事項を優先
  4. ◎ その他の重要性は消費者によって異なる→これまでの議論も踏まえつつ現行項目を検証し優先順位の考え方導入
  5. ◎ 将来的な表示事項の見直しに当たっても、優先順位に留意+コーデックス等国際的動向も踏まえる

ことが示されています。

いずれにしても、消費者の理解度等が重要な指標となることは間違いないのですが、今回加工食品の原料原産地表示の基準化に際し、図表12のように、消費者委員会からの条件の一つにも挙げられたことから、この機会に他の表示事項についても客観的なモニタリングを実施してもらいたいと思っています。

また、食品の表示は国民の「健全な食生活」の実現に不可欠であり、制度は消費者が確認し、理解し、活用することではじめて機能を発揮するものです。今後、「見やすさ」の客観的な解析とともに、本課題について新たな消費者基本計画に位置づけされ、本格的な検討がなされることを期待しています。

(平成30年6月30日現在)

-新たな食品表示基準の動向について-(平成30年5月31日)
-遺伝子組換え食品の表示制度の動向について ―その2 検討結果と今後のスケジュール― (平成30年3月31日)
-遺伝子組換え食品の表示制度の動向について ―その1 消費者の表示に対する意識― (平成30年2月28日)
-食品表示はどのように変わっていくのか?(その2)- (平成29年12月28日)
-食品表示はどのように変わっていくのか?(その1)- (平成29年11月27日)
-加工食品の原料原産地表示基準の答申及び施行に関しての留意点- (平成29年8月25日)
-加工食品の原料原産地表示基準に関する諮問に対する答申書案の審議動向- (平成29年8月1日)
-加工食品の原料原産地表示基準の審議動向- (平成29年7月3日)
-分かりやすい表示と情報の重要性の整序- (平成29年4月30日)
-加工食品の原料原産地表示に関する食品表示基準改正のポイント- (平成29年3月30日)
-若年層における食品表示教育の現状- (平成29年3月1日)
-食品表示制度と食育政策- (平成29年2月1日)
-新年のご挨拶 新たな食品表示基準等への対応の年に- (平成29年1月1日)
-加工食品の原料原産地表示制度に関する検討状況(中間取りまとめ)- (平成28年11月30日)
-加工食品の原料原産地表示制度に関する検討状況(2)- (平成28年10月31日)
-加工食品の原料原産地表示制度に関する検討状況(1)- (平成28年9月29日)
-「理事長からの食品表示便り」コーナーの創設に当たって- (平成28年9月1日)


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