理事長からの食品表示便り


-食品表示制度と食育政策-
名刺記載例

 「加工食品の原料原産地表示制度に関する検討会」で中間取りまとめが公表され、各地で説明会が開催されていますが、当該制度案の中でも、「可能性表示」、「大括り表示」等例外表示のルールが分かりにくいとの懸念が示されています。これらのルールは、活用主体である消費者に正しく理解されることが重要で、そのためには食育の一環としての普及・啓発の取組が必要不可欠とされ、とりわけ国等が実施する食育政策が大きく影響することになります。
 こうしたことから、あらためて食品表示制度と食育との関係を見てみることにします。

◎ 食品表示に対するニーズの高まり
 食育は、国民生活のあらゆる機会を通じて行われるものですが、特に食品の購入時及び消費時点における表示を通じた関連情報は、食に関する知識と理解を深める上できわめて有効な位置づけにあります。
 言うまでもなく、日々の生活に不可欠な食品は、安全性が確保されていることはもとより、安心や満足とともに消費者に提供されなければなりません。
 特に、近年の消費者ニーズの多様化等により、新食品や製造技術の開発が積極的に行われるとともに、供給過程も分業化が進展し、多段階化・複雑化する一方であることから、的確な情報提供が強く求められるようになってきました。
 食品表示は、こうした供給サイドと消費者間の重要な情報の伝達媒体の一つです。すなわち、本来の食品表示機能とは、供給サイドとして是非伝えたい情報、逆に消費者として是非知りたい情報を相互に共有するものです。
 しかし、昭和40年代以降、これらの情報に対する消費者のニーズが多岐にわたって強まるとともに、表示の偽装事件の多発や国際的調和(International Harmonization)の一環としての取組みに対応して、法令に基づく表示ルールが次々と強化されて行きました。
 この結果、本来の消費者のためという目的意識が薄れ、法令のためにという義務感覚が強まってきたことも否めません。

◎ 消費者基本法と食品表示
 消費者の権利と表示との関係を考察してみると、昭和30年代半ばの「にせ牛缶の表示偽装事件」が引き金になり、昭和43年に「消費者保護基本法」が制定されました。その後、同法は時代を経て消費者がより自立するための支援をする目的に改正され、平成16年に「保護」が削除され「消費者基本法」となりました。すなわち、「保護」から「自立」というスタンスになったわけで、消費者の8つの権利が基本理念として明記されました。
 これらの権利は、みな食品表示にも関連するものですが、特に「安全が確保される権利」「必要な情報を知ることができる権利」「(商品、役務について)適切な選択を行える権利」及び「消費者教育を受けられる権利」は関連が強いと言えます。
 このうち「必要な情報を知ることができる権利」及び「(商品、役務について)適切な選択を行える権利」は情報伝達機能としての表示に直接関連しています。さらに「安全が確保される権利」については、「食品安全基本法」に、「消費者教育を受けられる権利」については「食育基本法」にも関連事項が明記されています。
 すなわち、食品供給サイドとしては、消費者のこうした法制度上の権利を常に念頭においた対応が求められていることを再認識する必要があります。

◎ 食品安全基本法と食品表示
 ここで、食品安全基本法と食品表示の関連について見てみましょう。
 BSE問題を契機に、平成15年に制定された「食品安全基本法」は、食品の安全性の確保に関し、基本理念を定めるとともに、施策の策定に係る基本的な方針を定めることにより、食品の安全性の確保に関する施策を総合的に推進することを目的とした法律です。また、内閣府食品安全委員会の設置根拠法令でもあります。
 同法の基本理念としては、@「国民の健康保護が最も重要という基本的認識の下に必要な措置を実施」、A「食品供給行程の各段階において必要な措置を適切に実施」及びB「国際的動向及び国民の意見に配慮し必要な措置を科学的に実施」(第3〜5条)の3つが規定されています。特にAについては、フードチェーン全体において食品の安全性確保対策が必要であることを示しています。具体的には、これらを受けて第6〜8条において、国、地方公共団体及び食品関連事業者の責務が明記されており、このうち食品関連事業者については、「事業活動を行うに当たって、自らが食品の安全性の確保について第一義的責任を有していること」(安全対策)のほかに、「事業活動に係る食品その他の物に関する正確かつ適切な情報の提供に努めなければならないこと」(安心・信頼対策)の責任が規定されています。
 一方、消費者についても「責任」ではなく「役割」として、「食品の安全性の確保に関する知識と理解を深めるとともに、食品の安全性の確保に関する施策について意見を表明することに努めること」(第9条)が明記されており、食品の安全性に関する食育の推進に関連する規定となっています。

◎ 食育基本法及び食生活指針と食品表示
 一方、食育基本法と食品表示の関連について見てみましょう。
 平成17年に、食育について基本理念を明らかにしてその方向性を示すとともに、国、地方公共団体及び国民の食育の推進に関する取組みを総合的かつ計画的に推進することを目的とした「食育基本法」が制定されました。
 同法の前文には、我が国の発展のためには、食育を「生きる上での基本であって、知育、徳育及び体育の基礎となるべきもの」と位置付けるとともに、「様々な経験を通じて「食」に関する知識と「食」を選択する力を習得し、健全な食生活を実践することができる人間を育てる」ものとして、その推進が明記されており、表示に関する知識とそれに基づく適正な食品を選択する力の重要性もここに表されています。
 また、7つの基本理念が示されていますが、そのうち根幹をなす第2条では、「食育は、食に関する適切な判断力を養い、生涯にわたって健全な食生活を実現することにより、国民の心身の健康の増進と豊かな人間形成に資することを旨として、行われなければならない」とされ、「適正な判断力」には、食品表示の知識や理解も含まれることとなっています。
 一方、他の基本理念のうち、当然のことながら「子どもの食育における保護者、教育関係者等の役割」(第5条)及び「食に関する体験活動と食育推進活動の実践」(第6条)の対象にも食品表示に関する内容も含まれています。
 更に、「食品の安全性の確保等における食育の役割」として規定されている「食育は、食品の安全性が確保され安心して消費できることが健全な食生活の基礎であることにかんがみ、食品の安全性をはじめとする食に関する幅広い情報の提供及びこれについての意見交換が、食に関する知識と理解を深め、国民の適切な食生活の実践に資することを旨として、国際的な連携を図りつつ積極的に行われなければならない」(第8条)における安全性をはじめとする食に関する幅広い情報の中には、期限表示やアレルギー表示などが該当します。
 これら食品表示に関するルールを含めた食育の推進には、国の責務や地方公共団体の責務に加えて、「教育関係者等及び農林漁業者等の責務」(第11条)や「食品関連事業者等の責務」(第12条)も明確に規定されています。
 また、特に国民についても、「責務」という表現で「家庭、学校、保育所、地域その他の社会のあらゆる分野において、基本理念にのっとり、生涯にわたり健全な食生活の実現に自ら努めるとともに、食育の推進に寄与するよう努める」(第13条)と明記されています。このように、あえて「国民の責務」という位置づけにした重要性は、「食品安全基本法」における「消費者の役割」として比して注目されます。

 ところで、「食育基本法」に先がけて、平成12年に当時の文部省、厚生省及び農林水産省の3省が決定し、その推進について閣議決定された「食生活指針」は、国民が健全な食生活を実現するための10項目の実践項目から成っています。
 当該指針は、時代の変化等も踏まえ平成28年に一部改正されました。(http://www.maff.go.jp/j/syokuiku/shishinn.html)。
 本指針に示されている10項目は、健康・栄養面のみならず、食習慣や食文化、さらには食べ残しなどの環境面なども対象としています。また、これら10のメインフレーズともいうべき各項目には、補足的内容や解説的内容を付すことにより、より判りやすくすることを目的とするため、「食生活指針の実践」という各々数項目のサブフレーズが記載されています。
 例えば、メインフレーズの「食塩や脂肪は控えめに、脂肪は質と量を考えて」のサブフレーズには「栄養成分表示を見て、食品や外食を選ぶ習慣を身につけましょう」が、また「食料資源を大切に、無駄や廃棄の少ない食生活を」には「賞味期限や消費期限を考えて利用しましょう」が記載されており、いずれも表示の有効利用を促しています。

 以上、主として食育関連法令上における食品表示の位置づけを記しましたが、これらの施策は、現場で実際に活用されてはじめて実効あるものになります。
 すなわち、法制度を踏まえた企画と実践とのマッチングが不可欠で、そのためには食品供給サイド〜消費サイドのいわゆるフードチェーン間の連携はもちろんのこと、産学官の連携の下での、ありとあらゆる場所における積極的な取組みが期待されるところです。

(以上、平成29年2月1日現在)




-新年のご挨拶 新たな食品表示基準等への対応の年に- (平成29年1月1日)
-加工食品の原料原産地表示制度に関する検討状況(中間取りまとめ)- (平成28年11月30日)
-加工食品の原料原産地表示制度に関する検討状況(2)- (平成28年10月31日)
-加工食品の原料原産地表示制度に関する検討状況(1)- (平成28年9月29日)
-「理事長からの食品表示便り」コーナーの創設に当たって- (平成28年9月1日)


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