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理事長からの食品表示便り

「食品表示の全体像」の今後の検討方向

理事長

1 食品添加物表示について

6月、梅雨入りの候となり、アジサイの色も日々鮮やかになってきましたが、皆様お元気でお過ごしでしょうか。

食品表示制度の動向としては、現行消費者基本計画に明記されている要検討課題、いわゆる「宿題」の中で、唯一残っていた「添加物」に関して、4月末の平成の最後に消費者庁に有識者からなる「食品添加物表示制度に関する検討会」が設置されました。5月には第2回検討会が開催され、主要な消費者団体からの意見の聴取がされました。次回の6月の検討会では事業者からの意見を聴くことになっており、第4回ではそれまでの意見等を踏まえた論点整理案が提示され、以後本格的な検討がなされる予定です。早ければ今年末には中間報告がまとめられることになると思います。

2 ゲノム編集と表示について

一方、内閣府の消費者委員会食品表示部会においては、遺伝子組換え表示の審議を終え、以前から課題としてきた食品表示の全体像の議論が再開されました。

ただし、5月の第54回部会において、厚生労働省のゲノム編集に関する制度の動きに連動して、急遽消費者庁から同制度の表示の位置づけについて審議要請がなされました。

なお、5月の部会においては、ゲノム編集とはどういうものかに関する千葉大学の児玉教授からの説明とともに、厚生労働省担当者から同省としての対応状況の説明がなされました。本格的な議論は次回6月20日開催予定の部会でなされることとなっています。

したがいまして、本案件の審議状況等につきましては次回のメルマガにてご報告させていただくことにします。

3 食品表示の全体像について

現在の消費者委員会食品表示部会における重要な審議案件の一つが「食品表示の全体像」すなわち「分かりやすい食品表示」にするにはどうすればよいかという課題であることは、既号に掲載したとおりです。

この課題は、平成23年〜24年の食品表示一元化検討会における宿題でもあり、また今年度末(来年3月末)までに示される次期5か年の消費者基本計画に明記される予定の食品表示に関するよう検討事項にも関わる重要な位置づけにもなっています。

1) これまでの議論の整理

食品表示の問題点として、@安全性、自主的・合理的な選択の機会の確保のための表示内容が、消費者にとって十分に活用できる表示になっていない。A義務となっている表示内容に対し、製品包装における表示スペースが小さくなりすぎている。このことは単純な情報過多ではない、ということが挙げられてきました。

その結果、@表示が見づらい、理解しづらい(文字サイズ、レイアウト、フォント等の問題で、消費者が見て分かりにくい)、A食品表示を活用していない消費者も多くおり、このことは「平成29年度食品表示に関する消費者意向調査(消費者庁)の結果によっても、義務表示の各項目に対して、「表示を確認しない」「必要ない」という人が10〜40%の幅で存在することが示されています。こうした背景のもと、食品表示のより一層の充実、すなわち分かりやすい表示を求める声があります。

2) 課題解決に向けての調査の必要性

前記の課題解決に関しては、幾つかの意見が出されました。例えば、ユニバーサルデザインの導入等、多くの情報を伝える手段、方法で改善できる可能性もあるのではないかとか、食品表示を取り巻く現状等をまず整理する必要があり、現状の一括表示部分に関して、視認性と一括表示面積に関する調査を行う必要があるといった意見です。

これらを踏まえ、課題解決の考え方として、@視認性に関して、現在流通する商品の一括表示のデザイン、フォント及びサイズ等の情報量(空間的情報量)を把握するための調査が必要。A食品表示をより一層充実させるための物理的制限である、表示可能面積に対する一括表示面積の割合に関して、現在流通する商品の調査が必要。
という整理がなされ、これら@、A及びさらに必要とされる内容について、部会として消費者庁に調査が依頼されました。

3) 補助的情報提供手段としてWeb活用の検討

一方、購入の際に知りたい(必要な)情報が適切に得られるならば、必ずしも容器包装上の表示でなくてもよいのではないかとの課題解決の考え方も示されました。
表示可能面積において、一括表示部分の拡大(デザイン、面積等)ができない場合は、補助的情報提供手段としてWebを活用することを検討し、さらに、今後も予想される表示情報の増加や高齢者の視認性向上に対応することや、「広告としての活用」から「食品表示としての活用」の可能性を検討するため、現状における優良な事例を調査し、その情報を基にどのような具体的情報提供のあり方が考えられるかを検討することとなりました。

4) 今後検討すべき課題

オリンピック・パラリンピックの開催もあり、訪日・在日外国人への分かりやすさを改善することも有効との判断のもと、新規技術による外国語の翻訳対応やピクトグラムの活用に関しての検討や、視覚機能の弱い方への対応(デザイン[コントラストの明確化、配色への配慮]による改善やピクトグラムの活用)についても検討することになりました。

5) 今後の検討に当たっての考慮すべき点

既号で説明したように、「分かりやすい食品表示」、特に文字の大きさと情報量とのバランス(情報の重要性の整序)に関する検討は、これまでも幾度かなされてきました。

特に食品表示一元化検討会においても、以下の(1)〜(3)のような基本的な方向性につき報告がなされています。

今後はこれらの議論経過も尊重しつつ検討することが重要と思われます。

  1. (1)情報の重要性の整序
  2. アンケート調査(平成14年度に内閣府国民生活局が実施した消費者の意識調査「食品表示に関する消費者の意識調査」及び平成20年度に内閣府国民生活局が実施した国民生活モニター調査「食品表示等に関する意識調査」) によると、商品に表示されている事項の全てを見ている消費者は必ずしも多くはないという結果となった。このことを踏まえれば、表示事項全ての情報が消費者に伝わることを前提として、できる限り多くの情報を表示させることを基本に検討を行うことよりも、より重要な情報がより確実に消費者に伝わるようにすることを基本に検討を行うことが適切と考えられる。この「より重要な情報」、すなわち、消費者が求める情報には様々なものがあり、消費者一人一人にとって、その重要度も様々である。しかしながら、表示義務を課すことにより行政が積極的に介入すべき情報のうち、全ての消費者に確実に伝えられるべき特に重要な情報として、アレルギー表示や消費期限、保存方法など食品の安全性確保に関する情報が位置付けられる。

    また、情報の重要性は食品によっても異なる。
    加工食品の場合、その内容に関する情報が外見上だけでは分かりにくいことから、多くの情報の提供が必要になると考えられる。

    これに対して、生鮮食品の場合、商品の外見自体が情報であって、経験のある消費者であれば、外見からでもある程度は、その内容に関する情報を得ることができる。

    以上を踏まえ、新たな食品表示制度の検討に当たっては、情報の重要性に違いがあることを前提とした制度設計とすることが適切と考えられる。


  3. (2) 表示の見やすさ(見付けやすさと視認性)
  4. Webアンケート結果において、表示事項毎に、表示の分かりにくい理由を質問したところ、栄養表示の強調表示を除く全ての表示事項で「文字が小さいため分かりにくい」との回答が最も多く、食品表示をより分かりやすく、活用しやすいものにするための観点から、文字の大きさと情報量について質問したところ、「小さい文字でも多くの情報を載せる」が27.4%であったことに対し、「表示項目を絞り、文字を大きくする」が72.6%であった。

    今後、高齢化が進展する中で、高齢者の方々がきちんと読み取れる文字のサイズにすることが特に必要であり、このような観点からも、文字を大きくすることの必要性は高いと考えられる。

    このため、現行の一括表示による記載方法を緩和して一定のルールの下に複数の面に記載できるようにしたり、一定のポイント以上の大きさで商品名等を記載している商品には義務表示事項も原則よりも大きいポイントで記載するなど、食品表示の文字を大きくするために、どのような取組が可能か検討していく必要がある。


  5. (3)義務表示の範囲

  6. ≪基本的考え方≫
  7. 食品表示制度の目的の中でも、食品の安全性確保に係る情報が消費者に確実に提供されることが最も重要であり、表示を義務付ける事項の検討に当たっては、食品の安全性確保に関わる事項を優先的に検討する必要がある。

    消費者への情報提供を充実させていく上で、商品の容器包装への表示が良いのか、むしろ、代替的な手段によって商品に関する情報提供を充実させた方が良いのか、事業者の実行可能性に影響を及ぼすような供給コストの増加があるのか、さらに、監視コストその他の社会コストなど総合的に勘案した上で、消費者にとってのメリットとデメリットをバランスさせていくことが重要である。

    消費者への情報提供を充実させていく上で、商品の容器包装への表示が良いのか、むしろ、代替的な手段によって商品に関する情報提供を充実させた方が良いのか、事業者の実行可能性に影響を及ぼすような供給コストの増加があるのか、さらに、監視コストその他の社会コストなど総合的に勘案した上で、消費者にとってのメリットとデメリットをバランスさせていくことが重要である。


  8. ≪現行の義務表示事項の検証≫
  9. 現行の義務表示事項を個々に具体的にみてみると、加工食品についても、生鮮食品についても、長年の議論の積み重ねの下にその必要性が認められてきたものである。これまでの議論も踏まえつつ、食品表示の一元化に当たって優先順位の考え方を導入する機会に、情報の確実な提供という観点から現行の義務表示事項について検証を行うべきである。


  10. ≪新たな義務付けを行う際の考え方≫
  11. 現在表示が義務付けられていない事項についても新たに表示や情報提供を義務付けたり、制度の適用範囲を容器包装以外にも拡大しようとする場合には、優先順位の考え方を活用すべきである。例えば、加工食品について容器包装上の表示事項を拡大したり、現在表示の省略が認められている事項についても消費者に情報提供させる方向で見直そうとする場合には、それが「より多くの消費者が重要と考える情報」かどうかという観点から、優先順位をつけて検討すべきである。

6) 次期消費者基本計画における食品表示に関するスケジュール案

前記のような経緯を踏まえ、来年度以降に向けて策定される次期消費者基本計画においては、食品表示制度に関して図のようなスケジュール案が示されました。

今後のスケジュール案(たたき台)

現行の食品表示部会委員の任期は本年8月までとなっています。

したがいまして、以上の「食品表示の全体像」に関する内容については、次回6月の部会でのゲノム編集に関する議論が終わった後、7月及び8月の残された部会において最終的に議論がなされる予定です。

(以上令和元年5月31日現在)

過去の記事一覧

-協会設立10周年を迎えて(ご挨拶)-(平成31年3月31日)
-遺伝子組換えの表示基準改正について-(平成31年1月31日)
-創立10周年を迎えて(新年のご挨拶)-(平成31年1月1日)
-(続々)分かりやすい表示を目指して-(平成30年11月30日)
-(続)分かりやすい表示を目指して-(平成30年9月30日)
-栄養成分表示について-(平成30年7月31日)
-分かりやすい表示を目指して-(平成30年6月30日)
-新たな食品表示基準の動向について-(平成30年5月31日)
-遺伝子組換え食品の表示制度の動向について ―その2 検討結果と今後のスケジュール― (平成30年3月31日)
-遺伝子組換え食品の表示制度の動向について ―その1 消費者の表示に対する意識― (平成30年2月28日)
-食品表示はどのように変わっていくのか?(その2)- (平成29年12月28日)
-食品表示はどのように変わっていくのか?(その1)- (平成29年11月27日)
-加工食品の原料原産地表示基準の答申及び施行に関しての留意点- (平成29年8月25日)
-加工食品の原料原産地表示基準に関する諮問に対する答申書案の審議動向- (平成29年8月1日)
-加工食品の原料原産地表示基準の審議動向- (平成29年7月3日)
-分かりやすい表示と情報の重要性の整序- (平成29年4月30日)
-加工食品の原料原産地表示に関する食品表示基準改正のポイント- (平成29年3月30日)
-若年層における食品表示教育の現状- (平成29年3月1日)
-食品表示制度と食育政策- (平成29年2月1日)
-新年のご挨拶 新たな食品表示基準等への対応の年に- (平成29年1月1日)
-加工食品の原料原産地表示制度に関する検討状況(中間取りまとめ)- (平成28年11月30日)
-加工食品の原料原産地表示制度に関する検討状況(2)- (平成28年10月31日)
-加工食品の原料原産地表示制度に関する検討状況(1)- (平成28年9月29日)
-「理事長からの食品表示便り」コーナーの創設に当たって- (平成28年9月1日)


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